Photos & Text by colorsmagyoge.

 

台風13号からの東に触れたグランドスウェルが某周辺に最も強烈に届いた8/8(水)。

高波の影響で普段は通れるはずの海岸沿いの道が通行止となっていたことから松岡慧斗と共に夜中の3時に出発して車を走らせ、兼ねてから狙いを定めていた数カ所のブレイクをチェックするべく、村上舜、村上蓮、松下諒大と合流。

日が昇り始めた頃に待ち合わせ場所に到着すると、そこにはセットで8ftはあろうかという分厚い波が押し寄せていた。

Typhoon 13, Somewhere in Japan.

 

少し大味ではあるが、十分なサイズの波を見て早朝からテンションが上がった一行は、ここでサーフィンするのかと思いきや、追い求める「チューブがない」ということで、次なる狙いの場所へと車を走らせることに。

狙っていた2箇所目の海が見えてくると、サイズはかなりありそうだったが、しかし風向きが合わず、期待はずれ。

長居は無用ということでスルーし、最終目的地へと到着すると、なんとそこにはスケルトンベイを彷彿とさせるような海岸線沿いにうねりが斜めに入ってきてブレイクしていくパーフェクトなレフトがあった。

しかし、今まで見てきた2箇所よりもサイズは落ち着いて見え、しかもインサイドとボトムを形成する巨大なごろた石がブレイクと非常に近く、見るからに危険で果たしてサーフィンできるのかわからない状態であった。

Somewhere in Japan.

 

海底の地形はどうなっているのか。

万が一ワイプアウトしてスープの下で飲まれようものなら、オンザロックで怪我は必至に見えた。

一行は不安そうに、普段よりも注意深く、無言でただ波を見つめ続ける。

なぜなら、今まで見てきた2箇所に関しては以前からサーフィン可能なサーフポイントとして密かに知られる場所であったが、3箇所目に見ているこの場所は、未だかつて誰もサーフィンをしたことがない前人未到の未開のブレイクであったからだ。

このブレイクに目をつけていたのは松岡慧斗。

それは遡ること2年前に、台風によって届けられた大きな東よりのグランドスウェルがヒットした時のことで、その時は今回2箇所目にチェックしたポイントで、見事なスタンディング・チューブの写真を残し、そのショットは某雑誌で見開きを飾った。

その某雑誌の取材の際に数カ所チェックしたポイントの中に、今回、たったいま目の前でブレイクしている恐ろしいほどパーフェクトなレフトが割れる場所に、「ここはまだ誰もやったことがないポイント」としてこのエリアのローカルのボスであるM氏に連れて来てもらったのがきっかけだった。

その日から、ずっと松岡慧斗はここの波が目を覚ます日を待ち受けていた。

しかし、目の前でブレイクする待ち焦がれていた波は、松岡が想像していた以上にサイズが足らないようにも見え、確かにもうワンサイズあったとすれば、もう少し沖でブレイクするはずで、もしそうだとしたらもっとインサイドのごろた石に飲み込まれる危険性は回避できるようにも思え、何しろ実際に誰もやったことがないのだから、期待と恐怖が入り混じった他にはない緊張感に包まれていた。

「サイズが思ったほどないから、最後の保険で考えていたもう一箇所をチェックしに行くか?」

現在地から30分ほど車を走らせたところに、この日のうねりの向きと風向きが合うであろう某ブレイクがあったことから、松岡が村上にそんな提案を投げ掛けるも、しかし村上は無言のままじっと波を見つめ、たまに入るセットの波がラインナップすると狂気混じりとも聞こえる歓喜の声を上げた。

 

そのままじっと波を見続ける村上を横目に、そんな空気感を打ち破るかのごとく、松岡が「ちょっとトイレに行ってくる」と言うので、一緒に近くのコンビニまで車を走らせると、ものの5分もしないうちに松岡の携帯電話が鳴った。

「いま来たセットすごかったです!スピッツ吹いてました!ここでやりましょう!」

電話の向こうで興奮気味にそう言う村上舜の一言によって、このセッションは幕を開けることとなった。

ローカルのボスM氏のオーガナイズにより、安全面を優先してそのポイントのインサイドに位置する漁港からパドルアウトすることに。

「慧斗くん、勝負ですね」

ウエットスーツに身を包み、ワックスアップが整ったところで村上舜が松岡にニヤリと笑って言った。

その言葉に松岡も「おう、やるか。」といった感じで爽やかに返事を返す。

まさにそのやりとりは高次元でお互いを高め合えるこの2人にしか理解し得ないソウルフルなバイブスがなし得るコミュニケーションであるように見えた。

打ち合わせした際に松岡が希望したアングルへと歩を進め、海が見える位置まで行くと、波はさっきチェックしていた時よりもサイズアップしているように見えた。

 

誰にも乗られることなく、奥からぐりぐりっと底掘れするスラブ系チューブ波がスピッツを吹く姿をパドルアウトしながら目の当たりにした一行は、またしても狂ったような奇声を発しまくり、いよいよそれぞれがラインナップへとたどり着いた。

しかし、果たして一行がラインナップしたポジションがベストなのかということすらわからない状態の中、最初のオープニングウェーブとして波を掴んだのは松岡慧斗。

が、この波は流石のスーパーレイトテイクオフからのボトムターンで合わせるも、チューブにねじ込む際に分厚いリップに粉砕され、ことごとくワイプアウト。

Keito Matsuoka.

 

バックドアシュートアウトでのパイプラインのチューブで大会最高得点の11ptを叩き出し、Surfline主催のWave Of The WinterでNathan Florenceに次いで2位だった松岡にしてそう簡単な波ではないことが伺い知れた。

さらにその裏に入ったサイズのあるセットの波を掴んだのは、ほかの3人よりも控えめなショルダー側にラインナップしていた村上蓮。

この波は想像以上に綺麗な波で、チェックしていた時には波に乗るサーファーが一人もいなかったので、実際にセットでどれくらいのサイズがあるのかわからなかったが、村上蓮が掴んだこのセットの波は、乗っているその姿をみると余裕で6ftくらいはあるように見えた。

つまり、岸から波を見ている以上に、実際の波は大きかった。

ボトムターンで合わせると、とてもでないがリップできないほど掘れ上がり、波の中腹でストールしてねじ込むもディープに攻め切ることができず、まずは様子見でインサイドまで乗り継ぎプルアウト。

Ren Murakami.

 

「でけぇ!」

「ヤベェ!」

と、いつの間にか集まって来てギャラリーと化していたローカルサーファーの皆様の中の誰かが驚きの声を上げた。

しばらく波待ちが続き、緊張感が張り詰める中、次に波を掴んだのは村上舜。

テイクオフからハイラインに張り付いてストールすると、綺麗なチューブに突入していき、完全のその姿が見えなくなったところでわずかなスピッツと共に再び姿を現した。

周りから歓声が上がる。

Shun Murakami.

 

波を見ている時点から村上舜には見えるやつにしか見えないラインが見えていたのか、そのままテンポよく波を掴み、見事なチューブライドを連発。

Shun Murakami.

 

それに触発された松岡も得意のレイトテイクオフからのねじ込みを試みるが、そんなところでワイプアウトして平気なのかというくらいえぐいポジションで後ろ足が外れてしまい、見ているこちらが冷や冷やするようなハード・ワイプアウトで洗礼を受ける。

しかし、3本目に掴んだ波では見事セカンドセクションの高速チューブをバックサイドでメイク。

「さすがだな!」

今まで多くのトップサーファーを輩出して来たスキルの高いこのエリアのローカルたちを唸らせる。

さらに4本目は特大セットを掴み、ファーストセクションで本人としては「思ったよりも浅かった」というチューブを抜けてくると、ダブルアップしてさらに掘れ上がって来たセカンドセクションで得意の波のフェイスに座り込むようなケツストールでスピード調整を試みるが、水面をぽんぽんと跳ね返されてしまい、ねじ込みきれないにも関わらずそのまま攻め続け、とうとうそんなところまできたら危な過ぎるというくらいごろた石が目前の超インサイドで迫り来る分厚いリップをギリギリで交わし、爆発というに相応しい巨大なホワイトウォーターの下で決死のダイブを余儀なくされた。

Keito Matsuoka.

 

が、意外やごろた石にヒットすることもなく、そのまま何事もなかったかのようにげティングアウト。

この波に乗った松岡は

「あそこまでケツストールが通用しなかったのは初めてだった。インドネシアの波よりも波の面が固くてパワーがすごかった」

と、のちに語った。

さらにその裏の波を掴んだ松下諒大もファーストセクションで見事なチューブをメイク。

さすが村上舜と共に同級生のライバルとして同じ湯河原で育ち、ハワイでのアタックにも余念が無いその底力を見せつける。

Ryota Matsushita.

 

この頃になると普段ならとっくに撮影中止にしているくらい激しく雨が降り始め、colorsmag史上初と言って過言ではない撮影困難な状況となった。

が、たとえカメラが壊れようともここから一歩も動く気にはなれず、それはいま目の前で波に乗る彼らの強い気持ちにただただ突き動かされているだけだったのかも知れない。

やがて雨は止み、潮の上げこみに合わせて波はさらにサイズアップを果たしていく中、巨大セットにテイクオフして恐怖のフリーフォールを食らうも、怖気付くことなくチューブを抜けまくる村上舜、激エグな掘れた波に狂気のプルインを試みては何度も潰されながらも不屈の闘志で1発逆転を狙う松岡慧斗、そしてこの波を乗りこなすコツを模索しているように見える村上蓮と松下諒大。

Ren Murakami.

 

およそ4時間近くに渡ったこのセッションも、やがて潮が上げ過ぎの時間帯に入り、波数は減ってくるも特大セットの波は日本とは思えないようなクオリティーの高さで押し寄せて来た。

そんな中、松岡慧斗がセットの波にテイクオフ。

この波がまたものすごく、ファーストセクションは緩めに始まったが、セカンドセクションのチューブがダブルアップして巨大化し、しかも2本目のセットだったことから波の面も泡泡で、さらにはチューブの中に奇妙なよじれが生じてエンドセクションは開き気味となり、万事休すかと思ったところでまさかの姿を現し、見事なチューブを披露することとなった。

このライディングには一緒に見ていたローカルサーファーでこのエリアのビッグウェイブではすごいチャージとサニーガルシアを彷彿とさせる波を破壊するようなパワースナップを得意とするSさんも大興奮となり、

「ヤバ過ぎる!今のは10ptだ!!もう今日は今からBBQして飲んじゃおうか!」

とハイテンションとなった。

Keito Matsuoka.

 

さらにその次に立て続けに掴んだセットは本当に綺麗な形の波で、ファーストセクションからハイラインでチューブに雪崩れ込み、見事なスピッツアウトでメイク。

するとSさんは再び、

「いまのも10ptだ! トータル20pt!やば過ぎる!!」

と、さらに大興奮状態へと陥って行った。

Keito Matsuoka.

 

が、ここで黙っていないのが村上舜。

さらにその後に、いかにもやばそうなうねりの向きで入って来た巨大セットにたった一人だけ岸に向けてパドルを開始し、強烈なオフショアにあおられながらも、まさに紙一重のタイミングでボトムまで滑り降りてそのままボトムターンからねじ込み、パイプラインでのライディングを想起させるスタンティングチューブをメイクして魅せたのだった。

そのライディングは、昨日8/16(木)にお伝えさせて頂いたシークエンス・オブ・ザ台風13号の記事でのシークエンスとなった1本。

そちらをまだ見ていないという方はこの記事の最下部にあるリンクより、松岡慧斗によるスピッツアウトのシークエンスと併せてチェックしてみてください。

Shun Murakami.

 

サーフィンがオリンピック競技となり、ここ数年はいつの間にかコンテストが激増し、さらには人工的なウェイブプールが世の中の話題をさらっていく著しい時代の流れの中、純粋に波を追い求めていくというサーファーの本質的な部分を改めて思い知らされたかのような衝撃的かつ終始鳥肌が止まらない、決して忘れることのできない強烈なエピックセッションとなった。

数年に一度の、しかも誰も踏み入ったことのない海で人知れずブレイクして来たヴァージンブレイクを舞台に、まさに勝ち負けを超越してサーファーとしてプロの中でもかなり高次元でお互いを高め合うことができる松岡慧斗と村上舜だからこそ怪我すら恐れずなし得た歴史に残る伝説的スーパー・セッションとなったことは言うまでもないだろう。

最後に、このタイミングでこのポイントを快く解放してくださったローカルサーファーの皆様に、この場を借りて改めて感謝の意を表させて頂きます。

本当にありがとうございました。

明日はこのセッションのスペシャル動画をお届け予定!

そちらの方もこうご期待ください!!

 

【シークエンス・オブ・ザ・台風13号】前人未到の未開のブレイクでのフロントサイド・スタンディング・チューブ by 村上舜

【シークエンス・オブ・ザ台風13号】前人未到の未開のブレイクでのバックサイド・グラブレール・スピッツアウト by 松岡慧斗

【colorsTV】まさに狂気のチャージ! 台風13号で前人未到の未開のブレイクを開拓した松岡慧斗クリップ

【colorsTV】前人未到の未開のブレイクで繰り広げられた村上舜を中心とした松岡慧斗、松下諒大、村上蓮による台風13号セッション完結編ショートクリップ

 

 

 

yoge
サーフィン・プレビュー/吉田憲右著・泉書房、古都鎌倉ミステリー旅/吉田憲右著・コスミック出版など数々の書籍を発行し、2000年にTRANSWORLD SURFの外部スタッフとなったのをきっかけにメディア界に参入。 2001年から2009年10月まで月刊SURFING WORLDの編集部兼カメラマンとして勤務。 その経験と共に、第1回NSA東日本サーフィン選手権大会Jrクラス3位、2年連続THE SURFSKATERS総合チャンプなどテストライダーとして培ってきた経歴を活かし、サーフィンを軸としたスケートボード、スノーボード、ミュージック、アート全般をひとつのコーストカルチャーとしてとらえ、心の赴くままにシャッターを押し、発信し続ける。 >>>出版物 >>>プライベート撮影問い合わせ