Photos & Text by colorsmagyoge.

岩に突撃する危険度の高い恐怖のスラブ・レフトでのセッションを終えた村上舜、村上蓮、中学2年生の湯河原ボーイ力石マヒナ、そして脇田泰地の一行は、このポイントでのセッションを許可してくれたローカルのみなさまにお礼のご挨拶を済ませると、目の前でブレイクするダブル前後のオフショアで何回ものターンが可能なパーフェクトなマシンブレイクに後ろ髪を惹かれながらも、村上ブラがオーガナイズする次なる某リーフを目指して出発。

台風7号の接近に伴う豪雨と強風の影響で、最短ルートである海岸沿いの有料道路が閉鎖する事態となっていたことから、強制的に通ることとなった山側の一般道路では長蛇の渋滞に巻き込まれ、グランドスウェルがサイズダウンするのではないかという不安に駆られた。

しかし、その道をただ進むしか方法はなく、通常の2倍近い時間を掛けてようやく目的地周辺に到着。

が、このタイミングでまたしても線状降水帯によるゲリラ豪雨に襲われ、あまりに激しい雨で前方の視界が妨げられ、普通に走行するのが非常に困難となったとから、脇田泰地と共に近くのコンビニに車を停めて雨が収まるまで待機することに。

夜通し車を走らせて一睡もしていなかったことから、ここぞとばかりに仮眠をとることにした。

寝落ちするや否や、

「舜たちからサーフィンするって連絡が来たので行きましょう」

と、助手席の脇田泰地に起こされた。

ほんの一瞬しか寝ていないと思い込んでいたが、聞けば30分以上は仮眠していたようで、まだ半分寝ぼけているような状態のまま、なおかつ雨は豪雨ではないがまだ全然止んでいるわけではなかったが、ここまで来てセッションを撮り逃すわけにはいかないので急いで目的地に向かい、村上ブラたちと合流した。

ここは波情報に毎日情報が更新されるほどのメジャーなビーチブレイクのすぐ近くにある場所であるが、そのメインビーチからは確認しづらいはるか沖にその棚は位置していた。

ロコでなくてはわからないような細道を行った先の崖の上から波をチェックする。

はっきりと波のサイズを把握することはできなかったが、でかい波を遠くから見た時特有の、ブレイクする際のリップの動きがゆっくりと見える感じからして6ftオーバーは余裕でありそうだと思った。

何人も寄せ付けない異様な雰囲気を発しながらも、悪魔の誘惑の如く美しいAフレームで割れていく無人の波。

「おお〜っ!!ヤバいヤバい!!」

遥か沖から到達した巨大なうねりが棚に当たり、南と東から寄せ集まってソリッドに切り立つレギュラーを形成した特大セットを目の当たりにした一行の誰かが狂気まじりの奇声を上げた。

「よし!やるぞ!」

兄貴分の村上舜が発したその一言で全員がウエットスーツに着替えはじめる。

雨は以前として激しかったが、何とか雨をかわせる場所を見つけて三脚を立てると早速セッションはスタート。

誰1人として入っていない海に黒い豆のような点となった村上舜が、ゆっくりと沖に向かってパドルアウトしていく。

と、ちょうどそのタイミングで遥か沖から巨大なうねりが数本入ってきているのが見えた。

「これは、間に合うのか!?」

村上舜のパドルしているポジションからして、もしかしたら喰らってしまうのではないかと不安がよぎった。

が、その嫌な予感は的中。

1本目のセットこそギリギリで交わすことができたが、その裏に入ってきていたさらにデカいセットの波を真下で食らうこととなり、ボードを捨ててダイブする村上舜の姿がファイダー越しに見えた。

「デカッ!」

思わず独り言がこぼれてしまうほど、人が入ってみると実際にその波が想像以上に大きかったことに驚かされた。

セットは8ftオーバーは余裕でありそうで、まさしく冬のハワイ級のコンディションと言って過言ではなかった。

6、7秒ほど経ったところで水面に浮上してきた村上舜は、怖気付くことなく再びボードを手繰り寄せて沖に向かってパドルアウトしていく。

まずは小手調べといった感じで小さめの波にテイクオフする村上舜だったが、この波はすぐに厚くなったのでショートライドでプルアウト。

Shun Murakami.

棚自体が深いのだろうか、しっかりとした太いうねりが入ってこない限りなかなか波が割れることはないのだが、しかしそれが逆に海の中での自分のラインナップポジションを見失い易くさせる要素であるとも言えた。

チキってインサイドにポジションすればセットを食らうことからセットを待ち続けるしかなく、しかしうねりの向きによってピークが前後左右に動くため、的確なポジションにタイミングよく居合わせることも難しく、見た目以上に水量も多く波のサイズも大きかったことから、パドルしてもなかなか波を掴むことができず、メンバー全員のチョイスしたボード自体が短過ぎているように見えた。

そうやって波を掴むのに苦戦しながらポジションを模索していると、10ftはありそうな特大セットが突然入り、全員がそれを食らう羽目になり、それが過ぎるとまたしばらく来ないという状況が続く。

そんな中でもセットの波を掴んだのはまたしても村上舜。

ビッグドロップからフェイド気味に降りると、深いボトムターンでソリッドに切り立つ壁を背に、何を思ったか、バックサイドでチューブにねじ込んでいく。

が、チューブはすぐに潰れてしまい、メイクすることはできなかったが、その攻めっぷりは神風そのものであり、武者震いせずにはいられなかった。

Shun Murakami.

沖に向かうと、またしても特大セットが遥か沖に入り、1本目をギリギリで抜けたかと思ったが、案の定2本目は間に合わずにインパクトを食らうこととなり、メンバー全員がボードを捨ててダイブするしかなくなり、されど容赦無くそのまま立て続けに3本目も食らってサバイブを強いられる。

その後に入ってきたミドルサイズの波を再び村上舜がテイクオフ。

この波でもチューブを狙うかのアプローチであったが、チューブがすぐにピンチすることを判断したかのようにアイランドプルアウト。

ようやく脇田泰地も小ぶりな波を立て続けにグーフィー、レギュラー共に1本ずつ掴み始める。

さらに波のチョイスは良かったがランダムに動くピークに翻弄されてパドルが追いつかず数本逃していた村上蓮もソリッドなミドルセットの波をキャッチする。

Taichi Wakita.

Ren Murakami.

1本目と2本目の波でここの波質を把握した脇田泰地が、3本目に大きめの波を掴んだ。

ビッグドロップから深いボトムターンでショルダーに抜けると、トップターンからのカットバックでこの一本をメイクしていく。

Taichi Wakita.

気がつくと雨が上がっており、しかし潮が上げてきたこともあり波がなかなか来ない時間に突入した。

30分以上波を待ち続けたがセットが入ってこなかったことから、メンバーたちもこれで波も終了なのかと判断したのか、小ぶりな波に全員でパドルし、1本の波に同時に乗ってシェアライドを楽しむ。

Taichi Wakita, Ren Murakami, Shun Murakami.

が、1番レフト側からパドルした中学2年生の湯河原BOY力石マヒナだけがこの波を掴むことができず、村上舜、村上蓮、脇田泰地の3名はこのシェアライドを最後に岸に向かってパドルを開始していたことから、力石マヒナ少年だけが沖に1人、取り残されてしまった。

沖に目を向けると、数本の巨大なうねりが入ってくるのが見えた。

すると、それをいち早く察知した村上舜が、誰よりも早くパドルの方向を変えて沖に向かい始めた。

たった1人取り残されている、力石マヒナがいる方向へ。

巨大なうねりは刻々と力石マヒナがポジションするピークへ到達しようとしていた。

力石マヒナがその手前のうねりを超えた時、その裏にセットが入ってきていることをようやく確認したのか、はたまた、村上舜の声が聞こえたからなのか、沖に向かって必死にパドルし始める。

食らうか喰らわないか、スレスレのタイミングであることは一目瞭然であった。

迫り来る怪物を目の前に、力石マヒナは覚悟を決めたかのように岸にノーズを向けてパドルを開始。

乗れるか乗れないか?

ギリギリのタイミングでテイクオフを試みる。

Mahina Chikaraishi.

ワイプアウトしてもおかしくない極限の瞬間をメイクして、見事ボトムに滑り降りたのだった。

そのすぐ裏に入ってきた波を掴んだ村上舜も、グーフィー方向にライド。

そのまま力石マヒナとともに岸に向かってパドルしていく。

沖には出たものの一本も乗ることができず、このメンバーの中で誰よりも大きな恐怖と戦い続けていたに違いない中学2年生の少年は、それに真っ向から立ち向かい、自分の限界を突破した。

陸に無事生還してきた4名。

このセッションの話しで盛り上がるその顔は、最高の笑顔に満ちていた。

Shun Murakami, Mahina Chikaraishi, Ren Murakami, Taichi Wakita.

日本指折りのトッププロサーファーであり、ハードコアなウェイブハンターでもある地元の憧れの先輩たちに連れ回され、全力でそれに着いていこうとする力石マヒナにとってこの一日は、一生忘れることのない最高の中学2年生の夏休みの思い出となったに違いない。

yoge
サーフィン・プレビュー/吉田憲右著・泉書房、古都鎌倉ミステリー旅/吉田憲右著・コスミック出版など数々の書籍を発行し、2000年にTRANSWORLD SURFの外部スタッフとなったのをきっかけにメディア界に参入。 2001年から2009年10月まで月刊SURFING WORLDの編集部兼カメラマンとして勤務。 その経験と共に、第1回NSA東日本サーフィン選手権大会Jrクラス3位、2年連続THE SURFSKATERS総合チャンプなどテストライダーとして培ってきた経歴を活かし、サーフィンを軸としたスケートボード、スノーボード、ミュージック、アート全般をひとつのコーストカルチャーとしてとらえ、心の赴くままにシャッターを押し、発信し続ける。 >>>出版物 >>>プライベート撮影問い合わせ